憲法入門一日目:憲法とは何か

 

1 憲法の学習を始めよう

 お待たせしました。いっしょに憲法の学習を開始しましょう。

 わたくしもアカデミックさと面白おかしさを融合させるという困難なミッションに全力を尽くします。なるべく尽くします。楽しんだものが勝ちです。優雅に生きるのが最高の復讐です。

 

2 馴染みのある憲法

 「憲法」は義務教育でも学習しますし,改正問題をはじめ世間を騒がせることも多いので,民法や刑法よりも馴染みがあるんじゃないかと思います。条文の文言も,主要六法の中では読みやすくとっつきやすいでしょう。

 しかし,憲法には,ろくに学習せずに好き勝手なことを言いやすいという面もあるような気がしています。とっつきやすいことが原因かもしれません。

 条文が読みやすいのはよいことですが,条文の意味を理解し解釈するためには,『法学入門』でお話ししたように,条文の文言だけでなく,条文にどのような背景,思想や歴史があるかを学習しなければなりません。憲法はとくにそうだと思います。

 

余談:トンデモ本

 本屋さんに行ったところ,憲法を論ずる本がまたいろいろ出ていたのでぱらぱらと立ち読みしてみたのですが,あまりのトンデモっぷりに仰天して腰が抜けそうになった本がありました。

 皆さんはくれぐれもトンデモ本を信じ込んだりなさらないように。ささやかな私の願いです。いやまあ,何を信じるかは自由ですけれど。

 

3 憲法とは何かで始めるのが憲法学の定跡

 憲法の教科書をひもとかれたことがある方は,教科書の最初のほうがどんな内容だったか思い出してください。お手元にある方は,ちょっと開いてみてください。

 おそらく教科書の最初は,「憲法の意味」や「憲法の概念」になっているんじゃないかと思います。つまり,「憲法とは何ぞや」というテーマで始まっていることでしょう。

 法学入門が「法とは何ぞや」で始まるのと同じく,憲法学も「憲法とは何ぞや」で始まるのが定跡のようです。

 

4 「憲法とは何か」は飛ばせない

 『法学入門』のときは,「法とは何ぞや」は大変な難問ということで飛ばして先に進むことにしました。

 「憲法とは何ぞや」も,やはり難しい問題です。難しい問題は飛ばせるととても楽です。ですので飛ばして楽になりたくなるのですが,憲法の場合,残念ながらそうはいかないのです。

 憲法学の大家である芦部信喜先生は,『憲法叢説1』において,「憲法とは何か」は無味乾燥のようでもよく理解してほしい,この問いの意味と答えの中身をよく理解して,憲法の枠組みを頭の中にしっかり入れてほしいとおっしゃっておられます。

 

5 憲法学習は「憲法とは何か」から始まる

 憲法という概念には多義的なところがあります。様々な意味で用いられます。われわれが学習する対象である憲法はどの意味でのものなのか,そしてそれはなぜなのか,はっきり理解しておく必要があるでしょう。

 また,先ほども少しお話ししたように,憲法を学習するにあたっては,一つ一つの条文について学習する前に,そもそも憲法という法がどのような思想に基づき,どのような歴史を経て生まれたのかを学ぶ必要があります。

 よって,憲法の学習は,憲法とは何かを学ぶことから始まるのです。

 

6 憲法は日本国憲法だけには限られない

 もしかしたら,「憲法とは何かって,そんなの簡単じゃん。『日本国憲法』のことだろ」なんて思っておられるかもしれません。

 たしかに,日本国憲法は憲法です。

 ですが,日本国憲法は憲法の一つでしかなく,憲法は他にもあります。日本にはかつて明治憲法がありました。諸外国にもそれぞれ憲法があります。アメリカには「アメリカ合衆国憲法」,フランスには「フランス共和国憲法」,ドイツには「ドイツ連邦共和国基本法」,中国には「中華人民共和国憲法」があります。

 ですので,憲法とは日本国憲法のことだとは言えません。

 また,なぜそれぞれの国が憲法を制定しているのだろう,それぞれの国の憲法はどんな内容を定めているのだろうということも気になります。なりませんか。興味のある方はネットでぱらぱらと見てみましょう。

 

7 憲法とは憲法という名のついている法典のこと

 もしかしたら,「憲法とは何かってそんなの簡単じゃん。『憲法』というタイトルのついている法典のことだろ」なんて思っておられるかもしれません。

 たしかに,憲法とは憲法という名称の法典のことです。正解です。名称が「憲法」になっているかどうか,つまり形式に着目した定義です。

 

8 形式よりも内容

 しかし,この定義でいくと,法典の名称だけに着目し,内容は問わないことになります。法典の内容がどのようなものであっても,「憲法」という名称さえついていれば憲法です。

 たとえば,はるか昔に聖徳太子が定めた「十七条憲法」も憲法ということになりそうです。「なってもいいじゃん」と思うかもしれませんが,十七条憲法の条文を読んでみると日本国憲法や諸外国の憲法とは内容がまったく異なるので,これを憲法として扱っていいかには大きな疑問が生じます。

 また,先ほど出てきた「ドイツ連邦共和国基本法」のように,「基本法」という名称でも憲法として扱われているものもあります。定めている内容が,憲法にふさわしいからでしょう。

 そうすると,ここはやはり,法典のタイトルがどうなっているかという形式面ではなく,その法典が何を定めているかという内容面に着目して,憲法かどうかを判断すべきでしょう。

 

余談:十七条憲法

 十七条憲法の第一条第一文は「和を以て貴しと為し,忤ふること無きを宗とせよ」というものです。「忤ふる」は読めなかったので調べてみると「さかふる」と読み「逆らう」という意味だそうで,したがって,「和を貴いものと考えなさい,逆らうことがないことを旨としなさい」という意味になります。争いごとを好まず温厚な人柄の私にぴったりの条文ですが,憲法の学習においてこの条文を覚える必要はまったくありません。

 そのあとの条文も,だいたい精神論と言いますか,心構えというような内容です。

 日本国憲法や諸外国の憲法が,人権や国家機関について定めているのとはだいぶ毛色が異なります。

 

余談:ドイツ連邦共和国基本法

 東西ドイツが統一されるまで,東ドイツには「ドイツ民主共和国憲法」,西ドイツには「ドイツ連邦共和国基本法」がありました。

 西ドイツがあえて憲法という名称を使わなかったのは,いずれ東西ドイツが再統一されたときにあらためて憲法を制定しよう,それまでは基本法という名称にしておこうとしたからだそうです。

 ところが,再統一された後も,今のところ新しい憲法は制定されていません。他の問題で忙しいせいか,はたまた話し合いがまとまらず大変なせいでしょうか。再統一は西ドイツが東ドイツを吸収する形で行われたため,「ドイツ連邦共和国基本法」が現在も効力を有しています。「ドイツ民主共和国憲法」のほうは失効しました。

 

余談:イギリスには憲法という名前の法典がない

 先ほどは,アメリカ,フランス,ドイツ,中国とあげましたが,イギリスがあがっていませんでした。

 なぜかというと,イギリスには「イギリス憲法」というような法典が存在しないからです。ドイツのように基本法という名称になっているというわけでもありません。

 しかし,イギリスに憲法がないわけではなく,法律や判例や慣習といった様々な形で存在しています。イギリスは伝統をとても重視するお国柄のため,憲法という名称の法典を作ることなく,判例や慣習によって少しずつ憲法の内容を作り上げていったとも言えます。この話はまた次回に出てきます。

 

9 形式的意味の憲法と実質的意味の憲法

 憲法という名称を付けられている法典のことを,「形式的意味の憲法」と言います。

 この定義で言うと,十七条憲法も形式的意味の憲法にあたりそうです。ただ,あたらないとする考え方もあるようです。この考え方では形式的意味の憲法の定義が違うのかもしれません。

 これに対し,特定の内容を有しているもののことだ,という場合の憲法を「実質的意味の憲法」と言います。では,どのような内容を有していれば憲法なのでしょうか。

 

10 憲法は「法」

 憲法も「法」の一つですから,憲法が何かについて定めた「法」であることは間違いありません。

 では,いったい何について定めた法なのでしょうか。言い換えると,どのような内容について規定していれば「憲法」と言えるのでしょうか。

 

11 「憲」についての「法」?

 まずは「憲法」という言葉を分析してみましょう。

 「憲法」という言葉は,「憲」という漢字と「法」という漢字から成り立っています

 「憲」とは「のり」ですね。規則,決まり事,おきてといった意味です。「法」も「のり」ですので,「憲」と同じ意味になります。

 

余談:のり

 ちなみに「のり」の漢字は他にもあります。「規」「則」「典」「範」等々。これらの漢字はどれも,規則やおきてという意味を持っているようです。

 なんでこんなにたくさんの「のり」があるんでしょうね。おきての中身に応じて違う字を使っていたのかもしれません。どなたかご存知の方は教えてください。

 

12 「憲法」=「のり」の「のり」?

 「民法」が市民の法,「刑法」が刑罰についての法だったことからすると,素直に考えれば,「憲法」は「憲」についての「法」ということになるでしょう。

 そうすると,「おきて」についての「おきて」,メタな「おきて」になるのでしょうか。たとえば,法の定め方に関する法とか。

 

13 とても重要なおきて

 しかし,おそらくそういう意味ではなく,同じ「のり」という言葉を二つ積み重ねているだけのようです。「温暖」とか。

 もしかしたら,積み重ねることでよりいっそう強い「おきて」,とても重要な「おきて」だということを表しているのかもしれません。

 「憲法」という言葉の分析からは,どうやらとても重要なおきてを意味しているらしい,しかし残念ながら,具体的にどのような内容を定めている「おきて」だから重要なのかまではわからないという結論になりました。

 

14 外国語からアプローチ

 気を取り直して違う観点から出直しましょう。落ち込んでいても事態は改善しません。押してだめなら引いてみな,です。

 すでに『法学入門』で学んだように,日本に現在ある法制度はすべて,明治時代に西洋から輸入したものです。当然,「憲法」も西洋からの輸入ものです。

 そうであれば,ここは,輸入元である西洋において「憲法」がどのようにとらえられているのかを探るべきでしょう。

 

15 日本はConstitutionを輸入した

 日本が近代国家となるために西洋から法制度を輸入したとき,法制度の一つであるConstitution(英語)も導入しなければなりませんでした。ちなみに仏語でもConstitutionです。独語ではVerfassungでした。

 さてこのConstitutionにどんな訳語をあてようかという話になったのですが,Constitutionはこれまでの日本にはまったくなかった概念でした。そこで,漢語からそれらしい言葉を選んで訳語にするか,はたまた新語をこしらえるかといった話になり,いろいろと考案されました。

 

16 Constitutionの訳語候補

 Constitutionの訳語の候補となったのは,「国法」「国憲」「国制」「国体」「朝綱」「建国法」等でした。穂積陳重『法窓夜話』にこの話は出てきます。

 これらの候補の中から,次第に「憲法」が世の中に定着していったため,訳語として正式採用されたのでした。

 

余談:和製漢語

 明治時代にはいろいろな西洋語が輸入され,「憲法」に限らずいろいろな新語が誕生しました。法学関連で言えば「権利」「自由」「社会」などです。

 ところで,最近,中国語を勉強していて知ったのですが,明治時代に日本で誕生した新語が中国に輸入され,中国語になったものがあるということです。たとえば「哲学」「共産主義」などです。これを「和製漢語」と言うそうです。

 

余談:スタートレックのエンタープライズ

 「宇宙,そこは最後のフロンティア」で知られる『スタートレック』の宇宙艦「USSエンタープライズ」は「コンスティテューション級」です。つまり「憲法級」ということです。

 これだけでも「おおっ」と思ったのですが,調べてみたらなんとアメリカ海軍に「USSコンスティテューション」という艦が実在しており,現役の帆船だそうです。

 日本とはえらくネーミングセンスが違いますね。このへんにもコンスティテューションに対する日米の意識の違いが出ているようです。

 

17 Constitutionとは?

 では,Constitutionとは何なのでしょうか。

 肝心の問題に入っていきます。

 英和辞書をひいてみましょう。

 

18 国のかたち

 英和辞書によると,Constitutionという単語には,「構成」「組織」「構造」といった意味があります。古くは「身体の構造」という意味合いだったようですが,その後,「国の構造」を意味するようになりました。つまり,Constitutionは「国の構造」「国の組織」「国のありかた」「政体」といった意味になります。

 司馬遼太郎先生の著書に『この国のかたち』がありますが,「国のかたち」はConstitutionの訳語としてぴったりです。

 先ほどConstitutionの訳語として出てきたうちの「国制」「国体」は,きっとこの意味のConstituionを重視したのでしょう。

 

19 国の根本法

 英和辞書にはさらに別の意味も記載されています。

 Constitutionには,「国のありかたを根本的に定めた法」,すなわち「国の根本法」という意味もあるとのことです。「国家の基本法」「国の基礎法」「国家の統治の基本を定めた法」といった表現をすることもあります。

 先ほどの訳語のうち,「国法」「国憲」あたりがこの意味をあらわしています。「くに」の「のり」というわけですね。

 なお,Constitutional lawと表記することで,「国の根本法」という意味で用いているということをはっきりさせる場合もあります。

 

20 国の根本法を学ぶ

 以上からすると,Constitutionとは国の構造や国のかたちのことであり,さらには国の根本法のことでもあるということです。

 われわれは法学としてこれからConstitutionを学習していくのですから,国の根本法という意味でのConstitution,すなわち憲法を学習してゆきます。

 

21 憲法とは国の根本法

 憲法とは,国の根本法だということがわかりました。

 憲法と言えるために必要な内容は何かという問題については,国のあり方を根本的に定めた法であること,というのが答えになります。

 たとえ名称が憲法となっておらずとも,その内容が,国のあり方を根本的に定めているものであれば憲法だということです。

 

22 国とは何か

 話をもう少し先に進めて,「国のありかたを根本的に定めた法」とはどういうことかを検討しましょう。

 「ありかたを根本的に」の部分はなんとなくわかるということにして,「国」とは何なのかを少し詰めてみましょう。

 

23 国家三要素説

 「国」をどう捉えるかについてはいろいろな考え方があるところですが,法学においては「国家三要素説」という考え方が一般的です。

 この考え方によると,国家は,(1)領域,(2)人民,(3)権力という三つの要素で成り立っているとされます。つまり,(1)まず領土としての土地があり,(2)その土地の上で暮らす人たちがいて,(3)暮らす人たちを統治する組織がある,ということです。

 

24 国家の本質は統治組織すなわち国家権力

 この三つの要素のうち,本質的なのは(3)権力でしょう。

 というのも,(1)領域と(2)人民の二つは国家がなくても存在可能ですが,(3)権力は,国家がなければ存在できないからです。というか,人を統治する組織があってはじめて国家が成り立つという関係でしょう。

 したがって,国家の本質的な要素は,統治のための組織,つまり権力と言ってよいと思います。

 

25 憲法は国家権力について定めた法

 そうすると,「国の根本法」とは,国の統治組織すなわち国家権力について根本的に定めてある法だと言う意味になります。

 

26 各国の憲法も統治組織について定めている

 日本国憲法の条文をぱらぱらと眺めてみましょう。国会や内閣など,国家機関すなわち統治のための組織について様々に規定されています。

 ついでに明治憲法も眺めてみましょう。帝国議会とかちょっと言葉が違いますが,統治についての規定がたくさんあるのは同様です。

 外国の憲法も同様です。アメリカ合衆国憲法は第1条が合衆国議会から始まっています。フランス憲法も,大統領やらについて規定しています。興味がある方は,これら憲法の条文も眺めてみましょう。

 

補足:統治組織だけが規定されているわけではない

 私の助言を守って条文をぱらぱらと眺めた方は,あるいは眺めるまでもなくどんな条文があるかすでにご存知という方は,日本国憲法が規定しているのは,国家の統治組織だけではないということにも気づいておられるでしょう。それがなぜなのかは,また後で出てきます。

 

27 どんな国家にも国家権力に関するルールは存在する

 国家権力についてのルールは,成文の法典という形になっておらずとも,どんな国家にも存在します。国家である以上は統治の組織が必要なわけですが,組織を運営するためにはなんらかのルールが必要です。

 たとえば,王様,宰相,将軍,大臣等々がそれぞれどんな権限をもっていて,どんなふうに国家を統治するか,ということが決まっていたはずです。

 もしかしたら,他国と外交したり戦争したりを決めるのは基本的に王様の権限だけれども,大将軍だけは自己の判断で自由に戦争ができるなんていう決まりがあったかもしれません。勝手に現場が戦争を始めるようなのはたまったもんじゃないという気もしますけど。

 さておき,国家権力について定めた法,すなわち「国の根本法」は,あらゆる国家に存在すると言えます。「国家あるところに必ず憲法あり」です。

 

余談:中世に国家は存在したか

 「国家あるところに」と言っても,近代になるまで国家がはっきりと存在したかというと,なかなか難しいと思います。

 というのも,中世では,領土は複雑に入り組んでいましたし,人々も自分が何国人なのかという意識は希薄だったようです。統治組織も,王様と領主のややこしい関係があったりして不明確だったと考えられます。

 中世も終わりになると,国境が明確になり,租税を徴収されたり外敵に対して団結したりすることで祖国意識が芽生え,封建領主が打倒されていく中で国王の統治権が確立されていきます。ここではじめて,領土,人,権力の三つが明確な形でそろったわけです。

 

余談:国家が明確になるとともに憲法も明確化した?

 このように見てくると,中世以前の国家でもなんらかの形で統治組織は存在していたものの,はっきりとした形で存在していたわけではないので,統治組織についてのルールもあいまいだった,官僚制とともに統治組織が洗練されていくことでルールも明確化していき,憲法が明確な形で生まれた,あるいは意識されるようになった,と言うこともできそうです。

 

28 固有の意味の憲法

 国のありかたを根本的に定めた法としてとらえる場合の憲法を「固有の意味の憲法」と言います。

 

29 憲法は本来,国家の根本法であるだけか

 ところで,「固有の意味」という言葉は,あまり聞き慣れないように思います。

 「固有」は元々とか本来といった意味です。そうすると,「固有の意味」という言い方は,「本来はこういう意味でとらえるべきだよね」と主張しているようにも思えます。

 つまり,憲法というのは本来は国のあり方の根本法という意味であって,それ以上のものではないと言っているようにも思えてきます。はたしてそうなんでしょうか。

 

30 近代になって成文の法典としての憲法が生まれた

 近代になる前の憲法は,成文の法典もなく,あらゆる国にいわばぼんやりと存在するものでした。

 近代において,成文の法典としての憲法が誕生します。

 世界史で学習したかと思いますが,アメリカが独立した後,1787年にアメリカ憲法が制定されました。フランスでは,憲法が制定されるまで議会は解散しないぞと球戯場(テニスコート)で誓約し,そして1791年に憲法が制定されます。

 成文の法典という形で誕生したこのときから,憲法がはっきりと目に見える形で存在するようになったと言えます。

 

31 世界史の教科書では急に出てくる憲法

 ところで,高校で世界史を勉強しているときに,このへんで唐突に憲法が出てきていったいなんでだろうと疑問に思ったことはありませんか。アメリカはなぜ独立してすぐ憲法を制定したのでしょうか。フランスはなぜ球戯場で誓ったのでしょうか。

 もちろん,なんらかの必要性があったからこそ,アメリカもフランスもわざわざ憲法を制定したのです。その必要性を満たすためには,憲法は成文の法典というはっきりした形をとる必要があったのです。

 

32 近代において革命が起きた

 ご存知のように,あるいは「法学入門」でお話ししたように,近代になって革命が起き,自由平等を目的とする国家を作ろうということになりました。

 そういう国家を作るために,成文の法典としての憲法が必要とされました。

 もちろん,憲法は国家の統治組織を根本的に定める法ですので,新たな国家を作ろうというときには当然に新しい憲法が必要です。

 しかし,それにとどまらず,自由平等を実現するための様々な工夫を憲法に盛り込むことにしたのです。

 

33 近代において新しい意味が追加された

 つまり,近代になってから,憲法は国家の根本法という意味にとどまらないものへと進化し,いわばバージョンアップし,新たな意味が追加されたと言えるでしょう。

 

34 憲法は国家の根本法というにとどまらない

 世界史の教科書において,近代革命のところで初めて憲法が登場するのも,そのとき生まれた憲法こそが「憲法」だからでしょう。

 憲法は,決して,国家権力についての法にとどまるものではないと考えるべきです。固有の意味の憲法が本来の意味での憲法だなどと考えてはいけません。

 

35 われわれが学習するのは近代憲法

 歴史を踏まえると,近代になって制定された憲法こそが「憲法」の名に値するというべきです。われわれが学習する対象は,近代憲法です。

 

36 近代に何があったのか

 では,具体的に,どのような意味が追加されたのでしょうか。「憲法とは何か」において肝心なのはこれからとも言えます。

 これを知るためには,近代以前からどのような歴史があったのか,そのうえで近代に何が起きたのか,人々がどんなことを考え,唾を飛ばして熱い議論を交わし,ときには殴り合いの喧嘩をし,殴り合った末に友情が芽生えたらよかったのですが流血沙汰にまで至り,ついには大勢の人間のおびただしい血が流れるに至ったのかをたどっていく必要があります。

 ある程度は『法学入門』でもお話ししましたが,憲法でももう一度取り上げます。

 

37 続きはまた次回

 というところで,今回は終わりです。

 とても大事なところでまた次回となるのは視聴率をあげるための連続ドラマのようで私もいささか気が引けるのですが,ここからまた長い話になるのでやむを得ません。

 「憲法とは何か」の答えはまだ完全には出ていませんが,今回お話しした途中までのところも大切ですので押さえておきましょう。

 次回からは少し趣を変えてみます。お楽しみに。