(正誤問題)

1 権利能力とは,物を売ったり買ったりすることができる資格のことである。

2 権利能力が認められるのは日本人だけであるが,例外として,法人と胎児も一定の範囲で認められている。

3 自然人が取得できる権利の範囲には制限がない。

4 民法第3条1項は「私権の享有は、出生に始まる。」という規定だが,権利能力平等の原則の根拠規定とも言える。

5 自然人は,出生してから死亡するまで権利能力を有する。

6 権利能力は平等に認められるのだから,人の財産も平等でなければならず,貧富の差は認められない。


(論述問題)

1 権利能力とは何ですか。
2 権利能力を取得できるのはいつからですか。
3 条文はありますか。
4 権利能力を取得できるのは誰ですか。
5 条文はありますか。
6 「人」とは何ですか。
7 あらゆる自然人が権利能力を有するのですか。
8 そのことを何と言いますか。
9 条文はありますか。
10 権利能力を有するのはいつまでですか。
11 条文はありますか。


(事例問題)大判昭和7年10月6日(阪神電鉄事件)
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 Aは,X1と内縁関係にあり,X1はAの子を妊娠中であり,二人は近く婚姻届を出す予定であった。
 ところが,Aは,鉄道会社Y(阪神電鉄)の社員の過失によって鉄道事故に遭い,死亡した。
 Aの実父BやX1ら親族が集まり,鉄道会社Yとの示談交渉をCに委ねることとした。Cと鉄道会社Yは交渉し,鉄道会社Yが親族らに1000円を支払い,親族らは今後鉄道会社Yになんら請求しない,という内容で和解した。なお,1000円となった理由としては,X1が妊娠中であるという事実も考慮されていた。この和解に基づき,鉄道会社Yは,実父Bに1000円を支払った。
 だが,実父Bら親族は,受領した金員を,X1に対して分配しなかった。
 その後,X1はX2を出産した。
 X1・X2は,鉄道会社Yに対し,①Aが生きていたら得られたであろう扶養料が侵害されたことの損害賠償請求(X1・X2),②Aが亡くなったことによる精神的苦痛に対する慰謝料(X1),③Aが亡くなったことで私生児として生きざるを得なくなった慰謝料(X2)を請求する損害賠償請求を提起した。
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 X1・X2にはまことにお気の毒な事故だったし,お金を渡してくれないBやCら親族が悪いという気もするが,あくまでX1・X2と鉄道会社Yとの法律関係を考えなければならない。

 まず,そもそも①②③の権利がそれぞれX1・X2に認められるかが問題である。これには不法行為制度の知識が必要となる。

 次に,それらの権利が認められるとしても,Cがした和解契約の効力がX1・X2にも及び,「親族らは今後鉄道会社Yになんら請求しない」とした以上,もう請求できないのではないかが問題である。

 婚姻していないX1やその子X2に,扶養料等を請求する権利があるか。AとX1は法律上の婚姻関係になく,単なる内縁関係でしかなかったのだから,法律上の利益が侵害されたわけではないとも言える(第1審判決)。
 しかし,大審院は,AとX1との関係は,正式な婚姻を目指してのものであったのだから「法律上相当の保護を与ふるを以て正当」であるとして,X1・X2とも扶養される利益の侵害を認め,不法行為が成立するとした(①は○)。根拠条文は民法709条である。

 他方で,慰謝料については,民法第711条に規定された者ではないとして,X1・X2とも否定された(②③は×)。
 民法第711条は慰謝料についての規定であり,「被害者の父母、配偶者及び子」が請求できるとあるが,内縁関係では配偶者ではないし,認知されていないと法律上は子とも認められない。よって,民法第711条から認められないとされた。
 しかし,この点は,現在ではこのように考えられていない。民法第711条は,請求できる者を限定する趣旨ではないというのが一般的な考え方である。余力のある方は最高裁昭和49年12月17日判決を参照されたい。

 さらに,X1については,Cに交渉を委ねたのであるから,和解契約が成立した以上は,X1の請求権は「和解契約に因り消滅」したとされた(X1の①は×)。CはX1の代理人であり,代理人がした行為の効果は民法第99条1項により,本人に効力が生ずるのである。

 ところが,X2については,Cが交渉したといはまだ出生しておらず,胎児であった。民法第721条により,胎児の損害賠償請求権については既に生まれたものとみなされる。
 生まれたものとみなされるということは,胎児の間でも損害賠償請求権を取得し,誰かに,おそらく母親に代わりに行使してもらうことができるという意味とも考えられる。もし死産になってしまった場合,その時点でなかったこととなる。この考え方を,「解除条件説」という。死産のときに権利能力発生という効果が解除されるからである。
 他方で,胎児はあくまで権利能力を取得せず,出生して自然人になったときにさかのぼって権利能力があったこととなり,損害賠償請求権を取得するという考え方もある。この考え方だと,胎児の間は損害賠償請求権を取得していないので,誰かに代わって行使してもらうことも不可能である。これを「停止条件説」という。生きて生まれるまで,権利能力発生という効果が停止されているからである。

 大審院は,「胎児が不法行為のありたる後、生きて生れたる場合に不法行為に因る損害賠償請求権の取得に付きては出生の時に遡りて権利能力ありたるものと看做さるべし」とした。停止条件説である。
 もし解除条件説のように考えるとすると,胎児の間に損害賠償請求権を取得し,それを誰かに行使してもらう必要があるが,民法にはそのような規定がない。規定がないということは,胎児の間は損害賠償請求権を取得するわけではないことの現れと言える。

 そうすると,Cは,X1の代理人となることはできても,いまだ出生していないX2の代理人となることまではできない。Cが和解契約をした時点では,まだX2の損害賠償請求権は発生していなかったのである。発生していない権利をどうにかすることはできない。
 したがって,Cの和解契約の効力はX2には及ばない。X2の損害賠償請求権は消滅しておらず,鉄道会社Yに請求することができる(X2の①は○)。