民法初伝七日目:お金を払って取得する

1 売買契約
 今回から,しばらく売買契約についてのお話となります。
 今回は,売買契約を締結するとどういうことが起きるのかという話と,売買契約を締結するためにはどうしたらいいのかという話です。
 前者が売買契約の「効果」,後者が売買契約の「要件」にあたります。

2 民法が想定する売買のイメージ
 皆さんは「売買」と聞くと,日常的にしている売買,たとえばコンビニでおにぎりやジュースや雑誌を買ったりといったことをイメージすると思います。こういう売買は,レジでお金を支払って目的物を手に入れたらそれで終了です。始まってすぐに終わります。
 しかし,民法における「売買」は,①物件を調査して検討したうえで,相手方と交渉を重ね,②交渉が無事に合意に至ってめでたく契約締結となり,③その結果お互いが義務を負い,それぞれが義務をきちんと遂行してようやく終了するという,ある程度時間がかかるものが想定されています。
 というのも,民法の「売買」は,不動産の売買を基本形としているからです。不動産売買では大金が動くのが通常ですので,慎重にじっくり時間をかけて事を進めます。
 ですので,これからの学習も不動産売買を念頭に進めていきましょう。動産売買は応用ということで,あらためて学習することにします。

3 民法555条
 まずは条文です。売買契約についての最初の条文である民法555条を見てみましょう。しかし「555」とぞろ目なので意味もなくうれしくなりますね。うれしくても何にもなりませんけど。あ,でも,こういう愚かなことを読んだおかげで印象に残り,「売買は民法555条だ!」と覚えやすくなったかもしれません。
 民法555条は,「売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる」と規定しています。
 この条文によると,一方が,財産権すなわちある物の所有権を相手方に移転しますよということを約束し,相手方が,その代金を支払いますよと約束すれば,売買契約の効力が生じますということです。とくに難しいところはなく,普通のこと,当然のことのようにも思えます。

4 それぞれに義務・権利が発生する
 実は,民法では,条文の「約し」「約する」という文言は,「義務を負う」ということを意味するとされています。相手方との間でそのような内容の約束をしたということは,そのような法的な義務を負うことを自らの意思で決めたということだからです。以前お話しした「私的自治の原則」を思い出してください。民法の基本原則です。
 そうすると,民法555条は,「財産権を移転する義務」と「代金を支払う義務」を負うことをそれぞれが約束して合意が成立すれば,売買契約の効力が生じ,「財産権を移転する義務」と「代金を支払う義務」をそれぞれが負う,ということを定めていることになります。つまり,民法555条は,売買契約の要件と効果を定めているのです。
 民法は権利義務の体系ですので,当然,売買という取引も権利義務の観点でとらえられます。

5 売買契約の要件・効果
 売買契約が成立すれば売買契約上の権利義務が発生するのですから,「要件」が売買契約の成立,「効果」が売買契約上の権利義務の発生ということになります。
 しかし,これだけではまだ抽象的ですので,要件・効果のそれぞれについて,具体的な中身を検討していきましょう。何度も言っているように,要件・効果をマスターすることが法学の学習です。
 先に,効果から検討しましょう。

6 売買契約が成立すると売主・買主の双方に義務が発生する
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<事例1>
 Xは,Yとの間で,Xが所有する土地をYに1000万円で売るという不動産売買契約を締結した。
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 この事例では,売買契約が締結されているので売買契約の要件を満たします。要件を満たすとどのような効果が生じるでしょうか。
 まず,売った側であるXは,先ほど条文で確認したように,Yに財産権を移転しなければならないという義務を負います。売った側を「売主」と呼びます。
 他方で,Yは買った側ですので「買主」です。買主は,やはり条文で確認したように,その代金をXに支払う義務を負います。
 このように,売主も買主もお互いが義務を負うことになります。イメージとしては「X→Y 代金1000万円支払え」「Y→X 土地をよこせ」です。お互いに矢印が発生しています。
 そこで,それぞれの義務について順番に検討していきましょう。

7 財産権移転義務①所有権移転義務
 売主は「財産権を移転する義務」を負います。この財産権移転義務は,さらに内容が細分化されて3つに分かれます。正確に3つとも覚えましょう。
 まずは「所有権を移転する義務」「所有権移転義務」です。買主は,その目的物の所有権が欲しいからこそお金を支払うわけですから,売主は買主に所有権を移転しなければなりません。

補足:正確には権利移転義務
 売買の対象となるのは,実は所有権に限りません。権利を売買することもできます。最近ニュースで見たんですが,今どきはホテル宿泊予約権という権利も売ることができるそうです。都合で行けなくなったときにキャンセルするくらいなら売ったほうがいいでしょ,ということのようです。
 所有権移転義務と表現してしまうと所有権の売買に限定されてしまいますので,「所有権移転義務」よりも「権利移転義務」と表現するほうが正確なんですね。ただ,一般的な売買は代金をもらって所有権を譲るというものでしょうから,所有権移転義務でイメージしておいていいでしょう。

8 いつ所有権は移転するのか?
 売主は目的物の所有権を移転する義務を負うわけですが,いつ所有権が買主に移転するのでしょうか?
 どういうことかというと,普通に考えれば,①売買契約が締結され売主が所有権移転義務を負う→②成立後に売主が所有権移転義務に基づき何らかの行為をする→③それではじめて買主に所有権が移転する,ということになりそうです。
 ところが,通説は,売買契約と同時に所有権は移転すると考えています。これについては議論があり反対する学説もあるのですが,ここでは深入りせず,通説のように売買契約と同時に移転すると覚えておきましょう。
 したがって,売買契約が成立する→同時に買主に所有権が移転するということになり,売主は何の行為をする必要もありません。買主に「所有権移転請求権」というものが発生することもありません。

9 不特定物なら?
 ただし,売買契約と同時に所有権が移転するのは,目的物が「特定物」の場合です。
 「特定物」というのは, 取引において当事者が物の個性に着目したもののことです。簡単に言えば,取り替えがきかない物です。例えば,不動産は,この土地でもあの土地でもいいということは考えにくいので,特定物でしょう。また,この世に一つしかない絵画も特定物です。中古品も,新品同然からぼろぼろなものまで痛み具合は様々でしょうから特定物でしょうね。
 これに対し,取引において当事者が物の個性を問題とせず,単に種類に着目して取引したものを「不特定物」と言います。「種類物」とも言います。例えば,サントリーのプレミアムモルツ350ml缶を1ダースというのは,サントリーのプレミアムモルツ350ml缶でさえあればよく,この缶でないとダメだということはないでしょうから不特定物です。

10 不特定物売買なら特定のときに移転する
 売買の目的物が特定物であれば契約成立と同時に所有権が移転しますが,不特定物の場合はまだ引き渡すべき物が定まっていませんので,定まってから移転するとされています。引き渡す物が定まることを「特定」と言います。
 <事例1>では目的物は土地ですので,特定物に該当し,売買契約と同時に所有権は移転します。
 まとめると,目的物が特定物なら契約成立と同時に,不特定物なら特定したときに所有権が移転します。売主が所有権を移転させるための特別な行動をしなくても,それぞれの時点でぴゃーっと所有権は移転していきます。

11 他人物売買では所有権移転義務が問題となる
 そうすると,「所有権移転義務」が生じるなんてことをわざわざ言う必要はないじゃないかという疑問も生じます。特別な行動をしなくていいんですから。
 しかし,所有権移転義務が問題となるときがあるのです。
 どんなときかというと,売主が,自分の所有物ではない物を売った場合です。「他人物売買」と言います。
 他人物売買では,売主は所有者ではありませんので,たとえ特定物の売買であっても契約成立と同時に買主に所有権が移転することもありません。所有者ではない人と取引をしても,所有権を取得することはできないのです。ないものは移転しようがありません。

12 他人物売買の必要性
 そもそも他人の物を売るなんておかしいという意見もあるでしょう。
 しかし,現実の取引においては,先に売る話をまとめておいて,後から所有者と話をつけて目的物の所有権を手に入れて,そして買主に引き渡すということも考えられます。「まだ俺の物やないんやけど,3日後には確実に手に入るはずやから大丈夫」「わかった,ええよ,じゃあ3日後に引き渡してや」というように,お互いが納得のうえであれば,こういう取引を否定する理由はありません。
 そこで,民法は560条において,「他人の権利を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う」と規定しました。つまり,日本の民法は,他人物売買をおかしなものという扱いはせず,売主に「所有権を取得して買主に移転する義務」を課すという形で処理しているということです。
 よって,他人物売買の場合には,売主は,所有権を取得して買主に移転する義務を負います。

13 財産権移転義務②目的物引渡義務
 売主は,買主に対し,目的物を引き渡す義務も負います。所有権移転のほうは観念的な目に見えない形でのものだったのに対し,目的物引渡のほうは現実の占有を移すというものです。
 所有権は物の完全な支配権ですので,所有権が移転した以上は,新たな所有者である買主に完全な支配を移転しなければなりません。したがって,目的物の引き渡しが必要です。
 <事例1>では,Xは,Yに対し,土地を明け渡す義務を負います。なお,動産なら引き渡し,不動産なら明け渡しと言います。

14 財産権移転義務③対抗要件具備義務
 さらに,売主は,買主に対し,対抗要件の具備に協力する義務を負います。
 対抗要件って何だということになりますが,不動産であれば登記になります。動産なら引渡です。
 対抗要件は超重要なテーマにつながるので後で詳しく触れることにして,ここでは深入りしないことにします。今は「たいこうようけんってのがあるんだー」くらいで聞き流しておいてください。

15 目的物保管義務
 売主が負う本来的な義務はこのような「財産権移転義務」なのですが,それ以外にもいくつか義務を負っています。
 その一つが,買主に引き渡すまでちゃんと保管しておく義務です。特定物の売買のときにこの義務が生じます。特定物の売主は,民法400条により,目的物を買主に引き渡すまでは善良なる管理者の注意をもって保管する義務を負います。「善管注意義務」と言います。
 「善良なる管理者」というのは,要するに,他人様の物を預かるときには自分の物を保管するときよりも気をつけて丁寧に保管しなければならない,他人様の物を預かるという善良な管理者という立場で保管しないといけないということです。
 特定物の売買であれば,売買契約が成立した時点で所有権が買主に移転しているわけですから,引き渡すまでは他人の物を預かっている形になります。そのため,売主は善良なる管理者として保管しないといけないのです。<事例1>のXも,土地をYに明け渡すまでは善管注意義務・目的物保管義務を負います。

16 担保責任
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<事例2>
 <事例1>において,Yが買った土地が実は化学物質で汚染されていた。Yは,その事実を知らずに売買契約を締結した。Yがもし知っていたら1000万円も払ってそんな土地を買うことはなかった。
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 この<事例2>では,売買の目的物である土地がちゃんとした土地ではなく,いわばキズものでした。キズものを買わされたYとしては,Xに文句を言いたいでしょう。
 そこで,このような場合には,買主は損害賠償や代金減額の請求をすることができるし,あるいは売買契約を解除してなかったことにすることができるとされています。これらは,民法561条以下で規定されています。これを「売主の担保責任」と言います。
 この担保責任についても超重要な問題があります。かつ,民法改正によって大きく変化があったところでもあります。また後で詳しく触れますので,ここでは,売主は担保責任も負うということだけ覚えておいてください。

17 代金支払義務
 さて,買主の義務ですが,買主の義務は「代金支払義務」に尽きると言っていいでしょう。買主はきちんとお金を支払わないといけません。

18 売買契約の効果まとめ
 <事例1>をもとに,売買契約の効果をまとめましょう。
 まず,買主であるYはXに対し,「目的物である土地の明渡請求権」「登記の移転請求権」を有しています。所有権は,特定物の売買ですので売買契約と同時にYに移転しています。また,Xは,保管義務や担保責任も負っています。
 他方で,売主であるXはYに対し,「代金支払請求権」を有しています。「1000万円支払え」と請求することができます。

19 売買契約の成立
 次に売買契約の要件です。
 売買契約の要件は売買契約の成立ですが,どのような事実があれば売買契約が成立するのでしょうか?
 売買契約が成立するためには,売主と買主との間で,「売ります」「買います」という合意が生じることが必要です。改正民法522条1項に規定があります。
 そして,合意だけで十分です。売買契約書の作成は必要ありません。もちろん契約書は裁判において超重要な証拠となりますので,高額な取引では作るべきです。しかし,売買契約の成立要件としては不要です。民法上,口約束のみで売買契約は成立します。このことは,以前は条文がなかったんですが,改正民法522条2項で明記されました。

補足:成立と効力発生
 売買契約が「成立」するということと売買契約の「効力が生ずる」ということとは別の話です。次元が違います。
 成立するというのは,合意が形成されたことを言います。売買契約では,「君の持っているこのギターを10000円で譲ってくれ」「いいよ」というような感じで話がまとまったときに「成立」となります。契約締結と同じ意味です。
 これに対し,「効力が生ずる」というのは,成立したうえでその契約が有効と認められるということです。たとえば,「なあなあ,100万やるからあいつ殺してきてくれへんか」「ええよ」というようなのは,いくら合意しているからといってそんな契約が法的に認められるはずがなく,無効であって効力は発生しません。民法90条の公序良俗違反です。
 「成立しているかどうか」と「効力が発生しているかどうか」は論理的に別の問題です。ここをきっちり分けて考えるのが民法学習のポイントの一つになります。

補足:無効の意味
 売買契約の効力が発生しないというのはつまり売買契約が無効ということですが,売買契約が無効になると権利義務は生じないことになります。権利義務が生じるためには,売買契約が有効である必要があります。
 権利義務が生じないということは,双方とも「金払え」「物よこせ」とは言えないということです。「金払え」と言えないということは,法的に権利行使できないということです。法的に行使できないと,裁判に訴えて判決を取って強制的に取り立てるということができません。
 したがって,先ほどの「100万円であいつ殺してきて」「ええよ」という合意の例で言えば,「ちゃんと殺してきたのにあいつ約束の100万円払わへん。100万円払えやごるぁ」と裁判に訴えても,無効ですので法が助けてくれることはありません。だからこそ,ゴルゴ13は約束を破った依頼人を裁判で訴えたりせず,自らの実力で制裁を加えるわけですね。

余談:『ヴェニスの商人』
 シェイクスピアの有名な喜劇『ヴェニスの商人』では,シャイロックから借りた金をアントーニオが期限までに返すことができなければ,アントーニオは,シャイロックが選んだ身体の部位の肉1ポンド(約453グラム)を切り取って与えなければならないという契約が締結されます。はたして,アントーニオは返すことができませんでした。そこでシャイロックはヴェニスの法廷に訴えて肉を切り取らせろと要求します。裁判官ポーシャは,契約に基づいて肉を切り取ることはよいが血は流してはいけないという屁理屈のような判決を下し,アントーニオを救ったのでした。
 この判決に対しては,法学者イェーリングが『権利のための闘争』の中で厳しく批判しています。血を流さずに肉を切り取れるわけがないんだから,もし肉を切り取ってよいというなら血を流すことも当然許されるはずであってこんな判決文はおかしい,むしろ解決方法としては,人の肉を切るなんていう契約がそもそも無効だとすればよかったのだと述べています。
 『ヴェニスの商人』は法学者が好きな話だそうですし,教養のために読んでみてもいいでしょう。

20 合意の中身
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<事例3>
 Xは,Yが所有している土地を買わないかと持ちかけられた。「うん,買おう」とは答えたものの,いくらで買うか,いつ代金を支払うか等はまったく決まっていなかった。Xとしては,代金はだいたい1000万円くらいだろうと思っていたが,Yは5000万円と考えていた。YはXに対し,代金5000万円を請求できるか。
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 売買契約が成立するためには「売ります」「買います」の合意だけでいいんですが,正確にはもう少し必要です。民法555条をもう一度見てみましょう。「財産権の移転」と「代金の支払い」をそれぞれが約束したら成立するとあります。ですので,何を買うのか,いくらで買うのかについて合意しないといけません。
 <事例3>だと,何を買うかは決まっていますが,いくらで買うかが合意されていませんので,売買契約は成立していません。よって,売買契約の要件を満たしていませんから,Xに代金支払義務は生じておらず,YはXに5000万円を請求することはできません。

補足:売買契約の要素
 現実の不動産の売買契約においては,目的物は何か,代金をいくらにするか以外にも,いつ支払うのか,いつ明け渡すのか,それまでに不測の事態が生じたらどうするか等々たくさんのことを合意して,契約書に記載します。
 ですが,先ほども申し上げたように,売買契約が成立するためには財産権の移転と代金の支払いだけ合意すれば十分です。これらを「売買契約の要素」と言います。「要素」だとわかりにくいせいか,大村先生の教科書によると最近では「中心部分」「核心部分」「本質的部分」と呼ばれているようです。
 他方で,これら以外は「売買契約の周辺部分」「付随事項」と呼ばれます。周辺部分も合意すれば売買契約の内容となります。

補足:契約自由の原則
 所有権について学習したときに,所有者は自由に処分することができる,つまり売るも売らないも自由ということがありました。覚えていますよね,きっと。
 自由なのは所有者の側に限られず,買う側も自由です。したがって,お互いが自由な意思で,売るか売らないか,買うか買わないかを決めることができます。さらに,自由に交渉・協議して,合意に至れば売買契約が成立することになります。
 このように,売買契約を締結するかどうかは自由ですし,誰と締結するかも自由です。何を売るか,いくらで買うか等の内容についても自由に決めることができます。同時履行のところで出てきたように,いつ代金を支払うか,あるいは目的物を引き渡すかも自由に決めることができます。これを「契約自由の原則」と言います。厳密には,売買契約に限らず契約一般の話ですが,まあいいでしょう。

補足:私的自治の原則
 このような契約自由の原則は,私人間の契約関係は私人の自治にゆだね,国家の介入を認めるべきではないという,「私的自治の原則」から導かれています。
 法学入門でお話ししたように,市民社会では,私人が自由な意思で経済活動を行うこととされています。したがって,自身の意思によらずに,勝手に権利を取得することもなければ,義務を課されることもないということになります。権利を取得したり,義務を課されたりするのは,あくまで,自身の自由な意思で行動した場合,たとえば契約した場合に限られるというわけです。
 この私的自治の原則は,民法の三大原則の一つです。こちらのほうは,以前に出てきた所有権絶対の原則に比べれば,現在でも非常に重要な原則です。

21 債権・債務
 最後に,これまで権利・義務と表現してきましたが,売買契約から生ずる権利・義務は債権・債務となります。
 「債権」というのは,人が人に対して一定の行為を要求する権利のことです。他方で,人の物に対する権利が「物権」です。物権の代表は所有権でした。
 また,「債務」というのは,債権を反対からみた場合です。

22 物権と債権は民法の二本柱
 すでに所有権については学習しました。所有権は物権の代表でした。
 そして今回,債権が出てきました。
 この物権と債権は,民法の中で二つの柱になっています。大学の授業や教科書で,「物権法」とか「債権総論」「債権各論」といったものを見かけたかもしれません。
 しかし,いきなり「物権とは何ぞや」とか「債権とはどういうものか」という話を始めても,抽象的すぎてまったくわからないと思います。
 そこで,そういう話は後回しにして,条文の並び方や民法の体系などはまったく無視して,説明しやすい順序でお話ししています。

余談:物権的請求権は債権か
 所有権のところで物権的請求権を学習しました。物権的請求権は,侵害してきた相手方に対して所有者が請求できる権利でした。そうすると,物権的請求権は債権だとも思えます。そういう考え方もあります。
 しかし,通説は,債権ではないと考えています。というのも,債権なら民法466条以下に条文があるように債権譲渡ができるはずですが,物権的請求権は物権と独立した権利ではなく,それだけを譲渡することはできません。侵害されている人が文句を言う権利ですから,その権利を他人に譲渡するということは考えられません。なので,債権とは異なる,物権の効力として認められる権利と考えられています。

23 まとめ
 売買契約の要件と効果について,長々とお話ししました。
 重要な基本事項ですので,是非整理して覚えておきましょう。