1 法学学習の準備
初日の今回は,学習の準備についてお話しします。
何事も,準備がとても大切です。孫子も戦う前に十分な準備をしておけば,戦う前から勝っていると言っています。
法学も同様に準備が大切です。法学は大変な学問ですから,法学を学ぶからにはとくに念を入れて準備をしておかなければなりません。
2 学習に必要な物
まずは法学学習に必要な物をそろえていきましょう。
さて,法学学習にあたり,絶対に必要なものといえば何でしょう?
そうですね,『六法』です。法学を学習するのであれば,六法がなければ話になりません。早速,本屋へ行って六法を手に入れましょう。
3 古い六法は?
え,家に古い六法があるからこれではダメか?
ダメです。きっぱりダメです。
法律はどんどん変わりますので,古い六法では対応できません。それに,これから新しい分野を学ぼうというのですから,新しい六法を手にして新鮮な気持ちで学習すべきでしょう。ぜひ最新の六法を入手しましょう。
4 どんな六法がよい?
六法と言ってもいろいろな種類がありますが,最初はコンパクトなものでよいでしょう。
コンパクトな六法には細かい法律が掲載されていませんが,最初のうちは,細かい法律を参照することはあまりありません。また,分厚い六法は持ち運びが大変です。コンパクトな六法で十分でしょう。
具体的にはここらへんでしょうか。
・『ポケット六法』(有斐閣)
・『岩波コンパクト六法』(岩波書店)
・『デイリー六法』(三省堂)
他にもいいものがあるかもしれません。本屋で現物を見てみて,気に入ったものを選んでください。
5 判例付六法は?
六法には判例付六法というのもあります。六法に判例がついているわけですから,なんだかお得な感じもします。
しかし,これから勉強を始めようという今の段階では,判例付六法はまだ早いでしょう。
と言うのも,判例付六法に掲載されている判例は,ほんの要旨だけなのです。要旨だけを読んでもさっぱりわかりません。
判例付六法は,すでに判例を勉強して,だいたいの内容はわかっている人が,判例の要旨をちゃんと覚えているか確認するために目を通す,という使い方がよいと思います。つまり,判例六法は上級者向けです。
余談:なぜ「六法」という名称?
ところで余談ですが,余談は大好きなのでこれからもどんどん余談を挟んでいきますが,なんで法令集を「六法」と言うんでしょうね?疑問に思ったことがありませんか?
六法というのは,もともとは,六つの法典という意味でした。主要な法である憲法,民法,刑法,商法,民事訴訟法,刑事訴訟法の六つの法典で六法です。
有名なナポレオン五法典というのがあるんです。文字通り,あのナポレオンが作った法典です。民法,刑法,商法,民事訴訟法,刑事訴訟法の五つの法典でした。
日本はその五法典に憲法を足して,六法になったということです。誰がどういう経緯で憲法を足したのかは,調べてもよくわかりませんでした。ご存知の方は教えてください。ともあれ,その人が憲法を足さなかったら,今頃は日本でも「六法」ではなく「五法」だったかもしれません。
その後,「六法」という言葉は「法令を集めた本」という意味で用いられるようになっていきました。いつの間にそういうことになっていったのかについても,よくわかりませんでした。肝心のところがわからなくてすいません。どなたか教えてください。
ともあれ,当初は六つの法典という意味だった六法でしたが,現在では法令集という意味で用いられるようになっています。
6 教科書は?
教科書は,とくに使わない方針です。
実を言いますと,法学の教科書はなかなか難しく,初めて勉強する方が読んでもさっぱりわからないと思います。まるで外国語を読んでいるような印象になるでしょう。ちなみに,法学は外国語を学ぶのと同じ意識で学んでいったほうがいいと言われています。この点はまた後でお話しするかと思います。
加藤周一『読書術』にも,読んでわからないような難しい本はいっさい読まないという読書術が紹介されています。いつまでも読まないというわけではなく,自分を成長させて読めるだけの能力が身についてから読めばよいのです。
7 教科書を読んではいけない?
もちろん,教科書を読むのがダメという訳ではありません。勉強の基本は自学自習です。自ら教科書を読んで学ぶということはとても重要です。いずれは教科書を読めるようになりましょう。そのほうが学習効果としても効率的です。したがって,すでに教科書を自力ですらすら読めるというのであれば,私の話など聞いてないでどんどん学習を進めていくほうがよいでしょう。
しかし,法学には最初のとっかかりが難しい面があります。自習できるようになるまでが大変なのです。ですので,そうなるまでは,教科書に手を出さないほうがいいんじゃないかなあと思うのです。
余談:教科書について
法学の教科書には,いくつかの系統があると勝手に思っています。
1つめは,がっちりとしたアカデミックな体系書です。権威があって実務の世界にも通用します。法の専門家になるならこれくらいは読めないといけません。将来の目標です。
2つめは,学生向けの教科書です。1つめに比べればわかりやすく書いてありますが,それでも専門的な書籍ですので初学者には難しいのではないかと思います。
3つめは,やはり学生向けの入門書です。これは入門書だけに初学者向けのはずなんですけれど,読んでみると難しいことが多いように感じています。1つめ2つめの内容を簡略化して薄くしただけで,わかりやすくはなっていないんですね。初学者向けなら,むしろ分量が多くなってしかるべきです。ただ,わかりやすいものも幾つかありますので,気に入ったものがあれば読んでみるとよいです。入門書は相性が大切です。
その他,4つめとして,一般の人向けの法律知識紹介といった書籍もあります。これは面白く書いてあったりもしますけれど,法学について解説しているわけではなく,雑学的な内容です。学問的ではありません。
こういうわけで,なかなか初学者の方が読むといいという本はないように思うのです。私が知らないだけかもしれませんけど。
8 法学辞典は?
法学辞典も,まあ,いらないんじゃないでしょうか。勉強している間に,あまり法学辞典をひくことはありませんから・・・なんて言うと,「ちゃんとひけ馬鹿者!」と偉い人から怒られそうです。
しかし,これまで法学辞典を持ち歩いている方を見かけたことはほとんどないように思います。ということは,あえて買わなくてもいいんじゃないですかね。
9 判例集は?
法学を学ぶからには判例が大切です。
判例とは何かというのはまたいずれお話ししますが,とりあえず今は,「裁判所が出した判決のこと」という,かなり大ざっぱなイメージでよいでしょう。
判例集もあったほうがいいですね。今すぐでなくともよいですが,おいおい手に入れておきましょう。
10 どんな判例集がよい?
判例集にも色々な種類のものがあります。こういうときは,スタンダードなものを選ぶのが最善手です。有斐閣から出版されている『判例百選』というのが学生向けのスタンダードとされていますので,これを手に入れましょう。学習する法律の判例百選を適宜そろえていってください。最初に学習するのは,おそらく憲法か民法になると思います。
11 古い判例百選は?
判例百選も,もちろん最新のものを手に入れましょう。新しい版の百選には,新しい判例が追加されています。
ただ,古い版のものには,最新版では外されてしまった判例の解説が読めるという利点があります。持っていて損はないです。もし先輩から譲ってもらう機会などあれば,手に入れておきましょう。
12 精神面での準備
最後になりますが,学習において何よりも必要なのものがあります。やる気です。モチベーションです。
法学を学習するのは長丁場で大変です。途中で挫折する人は少なくありません。大学や予備校に通ったことがある方は,初めは人が一杯だった教室がどんどん閑散としていく姿を見たことがあるんじゃないでしょうか。もしかしたら,単に授業がつまらないだけかもしれませんけど。
ともあれ,皆さんは是非モチベーションを維持するように自ら心がけてください。やる気をもって楽しくやっていないと,勉強なんてやってられません。
13 法学は楽しいか?
法学はそもそも楽しいのかという問題があります。
かつて法学は,かのシラーから「パンのための学問」と言われてしまってます。シラーというのはドイツの詩人で「第九」の原詞を書いた人です。パンのため,つまり食うために渋々勉強しなければならなかったのです。渋々やっていれば,そりゃつまらないでしょう。苦行です。
でもまあ,パンのためであれ何であれ,楽しくやりましょうよ。法学そのものが,特別につまらないわけではないと思います。法学を学ぶことができるのは苦行が好きな人だけ,なんてことはないはずです。
要は,心がけの問題です。楽しんでやろうと思えばやれると思います。前向きに,どうやったら楽しんで学べるかを考えましょう。
14 楽しく学ぶためには?
例えば,ゲームだったら楽しめますよね。そこで,一つ一つミッションをクリアーしていくというゲーム感覚でやるのもいいと思います。
その他にもいろいろな方法があるでしょう。どのような方法が向いているかは,人それぞれという面もあります。皆さんそれぞれで工夫してみてください。これには勉強法に関する本が参考になると思います。本屋にたくさんあると思いますので,立ち読みしてよさげな本を買いましょう。
15 勉強成果を記録しよう
受験勉強として法学を勉強しなければならないという方に対しては,ノートに記録することをおすすめします。何を記録するかというと,日々の勉強成果です。教科書の何ページから何ページまで勉強したとか,問題を何問解いたとか,そういった情報を記録するのです。この方法は田村仁人『合格手帳』にも紹介されていました。
ノートに日々の記録をつけていくことで,自分がどれだけ勉強してきたかがわかり,これだけ勉強したぞという自信につながります。また,ノートにたっぷり記録するために勉強しようという気が起きるかもしれません。
16 運動もしよう
もう一つ,適度に運動することをすすめておきます。運動すればストレス発散になりますし,体力も維持できます。身体が疲れていれば夜もぐっすり眠れます。スタイルもよくなります。いいことづくめです。
17 気分転換のための本
気分転換のために,法や裁判に関する本やマンガを読むのもいいですね。勉強に疲れたときに,忘れていた当初の情熱を思い出せるかもしれません。
気軽に読めるものを傍らに準備しておくとよいでしょう。そちらばかり読んでしまってもいけませんけど。